恐竜は大きくなり続けた結果、
滅亡しない道があったかもしれない話
皆さんは大きなつづらと小さなつづら、
選べと言われたらどちらを手にしますか?
私はやっぱり、小さなつづらを
選んでしまうのではないかと思います。
何故ならば、大きなつづらの中には
何が入っているか分かった物でもありません。
ただ小さなつづらに財宝が入っていたとなれば、
大きなつづらの中身が気になってくる
のが人間でしょう。
ひょっとしたらマトリョシカになってるとか?
大きいつづらに財宝が満載されてたかも……
想像は無限に膨らみますね。
今日は「大は小を兼ねる?」
そんなお話です。
学生時代から大好きだったのは歯型彫刻でした。
そこで、私は
歯型彫刻大会「ほるほる」に参加して
決まってオリジナルの彫刻刀
を愛用するようになりました。
最初は、
デザインナイフやエヴァンス刀ばかりでしたが、
日々繰り返し超硬石膏を削っていると
刃こぼれが目立つようになります。
その都度、刃を研ぐのも結構な労力です。
よって次第に、
刃に硬度と粘りを求める様になりました。
硬度と粘りのある刃……
すなわち日本刀ではないか!
つまり日本刀で彫刻すれば良かったんだよ!
(ナ、ナンダッテ~!?)
閃いてしまったからには実践してみたくなる!
それが技術屋さんというもの。
早速、
東急ハンズの金物コーナーへ足を運びました。
さすがは東急ハンズ。
凝った彫刻刀や匠の技を駆使した包丁などが
所狭しにずらりと並んでおります。
しかし中々、目ぼしい彫刻刀が見つかりません。
木工用のものはグリップが微妙だし、
切出し等ではいくらなんでも大きすぎるし……。
当然、見た目の美しさも重要です。
そもそもシェイクハンドグリップでは
歯型彫刻のような細かな作業に適しておらず、
「鉛筆持ち」でないと小回りが利かないのです。
そんな時、ふとショーケースの中に飾られた
一枚の刃が目に留まりました。
美しいフォルム!
ステンレスとは一線を画す焼き入れ鋼の強度!
まさに日本刀の風格をも兼ね備えていよう…
それは切出し刀の替え刃だったのです。
当然、歯型彫刻に用いる道具からは
およそかけ離れた形状をしていましたが……。
この彫刻刀との出会いが
「ほるほる」最優秀賞受賞へ
私を導いてくれたと考えています。
ところがあまりに形状と大きさが非常識なので、
しばしば
「この大きな刃でどう彫刻するの?」
と聞かれることがあります。
しかし歯型彫刻を追求していくと、まずは
時間内で正確に仕上げることが重要になります。
ともすれば、求められるのは切削力と切削速度。
加えて刃が小さく面を形成しにくいツールより
概形をいち早く仕上げることのできる
大きな彫刻刀を愛用する傾向があります。
そうした結果を示すものがこの彫刻刀なのです。
私は
クラウンの形態修正に関しても同様で、
小さなバーではなく大きなものを多用します。
というか
正直なところ、ディスクが大好きです。
とりわけ前歯の形態修正などは、9割方まで
カッティングディスクのみで完成させられます。
ディスクは円周が大きく、切削力が抜群です。
突き詰めると、
スピード面では最速と言っても過言ではない。
(さすがに臼歯の咬合面は無理ですが……)
例えばポーセレン築盛においても、
ビッグブラシ一本だけで全てを完成させる。
それが弊社Grossの基本です。
そもそも
ドイツ語の「Gross」という単語自体、
「大きい」を意味するのですが、
ひょっとすると……。
突き詰めるとどんどん大きくなって行くものは、
人も彫刻刀も同じなのかもしれません。
とはいえ、
恐竜の様に巨大化の末の滅亡もあります。
どれだけ進化しようとも
特に態度だけは大きくならないよう、
謙虚に成長していきたいものですね。
ライター 髙瀬 直